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生004 : ドイツに学ぶ動物福祉の思想 ② 〜ティアハイムの存在理由

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「飼い主がいないことは、動物を殺す理由にはならない」
殺処分ゼロを目指すお手本のひとつとなりそうな、ドイツの動物保護施設「ティアハイム」。 sei004photo1でも、ただ箱物をつくっても、本物の正しい道は開けません。では、ドイツにあって、日本に足りないものは何か。お金?寄付する慣習?施設?スタッフ? 前回に引き続き、ドイツの動物福祉に詳しく、日本にティアハイムを紹介した第一人者である、ベルリン在住の京子・アルシャー獣医師に教えていただきましょう。

民間と行政の連携がスムース
ドイツの人にとって、ティアハイムはどれほど身近なものなのでしょう。  まず、犬を引き取ってもらいたい人は、施設ごとや犬の状況等により異なりますが、だいたい避妊去勢済み、ワクチン済み、マイクロチップ装着済みの成犬で30〜40ユーロ(日本円で約3800〜5000円。1ユーロ=128円で換算。※2013年4月8日現在。以下同)払います。
そして犬の新しい飼い主になりたい人は、犬の状態等にもよりますが、成犬で約200ユーロ(約25600円)を支払い、犬を手に入れます。
「ドイツでは、ペットショップでの生態販売が禁止されているわけではありませんが、飼養環境等の条件が法律で決まっており、自然光の届かぬ狭いケージに犬を入れっぱなしはできないなどの規制が細かくあるので、実質的に店頭販売がほぼ不可能。そのため犬と暮らしたいと思ったらまずティアハイムに行く人が多いのです。あるいはブリーダーから譲渡を受けるかです」。日本人の多くが犬を購入するときペットショップに行くように、ドイツではティアハイムにまず出向くのが普通とのこと。
sei004photo2 また、飼い主のいない犬がひとりでふらふらと歩いていたら、警察から委託を受けた民間の「犬捕獲員」が犬を捕まえにいき、ティアハイムに連れていきます。ティアハイムは迷子の一時預かり施設としても機能しています。飼い主が迷子情報を聞きつけお迎えに行った際には、捕獲料と日割りの施設使用料(一時預かり費用)として約35ユーロ(約4500円)くらいを支払います。ちなみに日本でも愛護センターに迷子犬を迎えにいくときは同様に返還手数料と日割りの飼養管理費を支払うことが一般的です(金額は自治体により違います)。
日本で愛護団体から動物を譲り受けたり、愛護センターに迷子の愛犬を引き取りに行ったりする金額と大差はそうありません。ただ、ドイツの方が民間であるティアハイムや犬捕獲員と、警察や獣医局といった行政機関との連携がスムースだと感じます。アルシャーさんは「日本でも、警察犬の育成は民間に委託している例も多いので、行政の仕事を民間にお金を払って委託するシステム自体はそんなに難しくはないと思うのです」と言います。

終生飼養や引き取り拒否は必ずしも善ではない
殺すことを前提としないティアハイム。それが理想論であることは、私たち日本人もわかっているはずです。でもなぜドイツでは実現できて、日本ではまだ到達できてないのでしょう?
答えは実にシンプルでした。「飼い主がいなくなったからといって、それは動物を殺す理由にはならないからです」と、アルシャーさんはきっぱり言いました。
つまり、飼い主がいなくなったり、動物を飼うのにふさわしくない人間だったら、次の飼い主を探せばいい。終生飼養を高らかに謳う日本の価値観とは異なります。「虐待に近い飼い方や、動物の行動や習性を理解しないでただ飼い殺しにしている飼い主の元で飼われたら、<5つの自由>を守ることはできません。また今度の動物愛護法改正で日本の愛護センターではこれから引き取り拒否をすることになりそうですが、引き取り拒否をされた人は別の場所に遺棄するだけではないでしょうか」。日本では終生飼養を推奨しますが、ドイツではそうではないのです。動物の<5つの自由>を保障できない人は、行政から法の下で動物を取り上げられます。そして新しい飼い主探しをするのです。 sei004photo3
「もちろんドイツでも、動物を正しく飼養できない人や、引き取ってもらうお金を払いたくなくてそのままティアハイムの前につないでいくような人もいます。お金の問題ではなく、捨てる後ろめたさゆえ置き去りすることもあるかもしれません。価値観も経済状況もいろいろな人がいます。でもそれを<必ず終生飼養しないといけない><引き取り拒否をしよう><有料システムは払う人と払わない人がいると不公平だからやめよう>などと言っていたら、先に進みません。ある程度のグレーゾーンは仕方がないのです」。
全員一致の公平なルールを作ることは不可能に近いと思われます。それにしてもなぜドイツは、グレーゾーンを容認し、多くの施設を維持する金額やボランティアが集まり、ティアハイムを実現できているのでしょうか。
「かつてユダヤ人だからという理由だけで虐殺をした歴史を持つドイツは、それを反省し、自然環境を含め自分以外の生命を、自分(人間)の都合で苦しめてはいけないという思いが社会全体に強くあるのだと感じます」。
しかも犬猫は野生動物ではなく、人間が繁殖をコントロールし、食物と毛布を与えて加護してきた動物であり、人間社会とともに密接に生きてきた動物です。ますます人間に責任があります。

onepoint

<5つの自由> ● 乾きと飢えからの解放 ● 不快からの解放 ● 苦痛・損傷・疾病からの解放 ● 正常行動発現の自由 ● 恐怖・苦悩からの解放

ただ最後にアルシャーさんは付け加えました。
「(至れり尽くせりのよい環境が用意されている)ティアハイムの犬は幸せね、という人がいますが、私はそうは思いません。世話してくれる人はいますが、飼い主はいないからです。もしもドイツのティアハイムにいる犬の方が、日本の平均的な飼い犬よりも幸せだと言うなら、それは違います」
ティアハイムは、犬たちの楽園ではありません。<5つの自由>を与えられるよう最大限の努力をされた素晴らしい施設ではありますが、犬たちにとっていちばん大事なものがひとつだけ欠けています。彼らが心から待っているのは、ただひとりの飼い主さんなのです。
(写真提供:京子・アルシャーさん)

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