ブログ

生002 : ペットロスを考える ①:子供時代と大人時代のそれぞれのペットロス

title_sei
top_sei002

命ある動物と暮らすと、必ず訪れるのが「死」です。私たちはいつか来る愛犬との別れをどのように受け入れるべきなのか・・・なかなか直面したくない問題ですが、改めて考えてみたいと思います。
今回から2回に渡って、数多くの雑誌で犬ライターとして活躍し、自身も犬2頭と猫1頭と暮らしている雑文家の白石花絵さんに「ペットロス」をテーマに寄稿いただきました。

犬は子供に多くのことを教えてくれるが、 その中でも死は特別
私は今までの人生で、犬5頭、猫1頭とお別れを経験しました。
子供時代に飼っていた犬2頭とのお別れは、もちろん子供心にものすごいダメージを受けました。sei002photo1死別のあと、お風呂でひとりになると泣き、理科で心臓のしくみを習ったときは授業中に泣き出したこともあります。なにしろ最初の犬、迷い犬の末、うちの子になった大型のビーグルは心臓に内部寄生虫が巣食う病気であるフィラリアで死にました。享年5歳。自分が中学1年生だったときです。当時はフィラリアの予防薬がなかった時代だったため、犬の平均寿命は今よりもずっと短かったです。

ビーグルの死後、4か月経ってもまだ無口で毎日暗い表情の私を見かねて(今思えばペットロス症状の典型的な症状のひとつ、感情が鈍麻した抑鬱状態です)、父がジャーマン・ショートヘアード・ポインターをもらってきてくれました。単純な子供だった私は、すっかりペットロスから立ち直りました。彼は、思春期や反抗期といった難しい時期だった私をいちばん支えてくれた存在でした(享年5歳)。
彼らとの感激的な出会い、毎日の散歩や山遊び、そして悲しすぎる別れが、いまの私をつくったといっても過言ではありません。彼らがいたから、私は近所の獣医の先生と仲良しになり、高校生のときには毎日その動物病院にバイトに行き、犬舎の掃除やエサやり、手術の手伝いなどをしたり、また多くの犬や飼い主さんと接する機会を得ました。私が現在、犬ライターとして仕事ができている素地は、すでにそのときから形成されていたのだと思います。
sei002photo2 そして死別は、子供心にものすごく辛い体験ではありましたが、彼らが死をもって教えてくれたことは、どんな教科書にも載っていないことであります。核家族が増えた現代の日本で、身近な者が完全にこの世からいなくなる実感、生の儚さ、自分の非力さなどを教えてくれて、さらに人生最大の絶望から立ち上がる練習もさせてくれたわけです。子供のときにこうした経験を積んでいるか否かにより、心のキャパシティーは大きく変わってくるような気がします。
少し話しはそれますが、親が子供に買い与えた犬を、数年後に動物愛護センターに捨てに行くのが残念ながらわりと頻発している世の中ですが、それこそ強烈なペットロスの打撃を子供に与えているのではないでしょうか。死別よりも、ショックが大きい気がします。自分の犬が、引っ越しや受験や世話が面倒などの理由で親に捨てられてしまったら、子供は何を感じるでしょう。自分の無力さ、親や社会に対する不信感、犬への申し訳なさ……こうした子供の心の問題について論じられた話しはあまり聞きませんが、ものすごく傷ついた子供たちが実はたくさんいるのではないかと、私は心配しています。反対に、犬を捨てられてもたいして気にせず、傷つかないような子供がいるとしたら……それも大変恐ろしい事態だと思います。「殺処分」の問題は、動物たちだけでなく、子供の心をも殺している可能性があります。

大人になってから 自分の全責任において飼う犬への想いも格別
一方、大人になってから共に暮らすことにした犬との別れは、また少し違う気持ちになります。sei002photo3なにしろ今度は、自分に全責任がある。飼うぞという決断、犬を選ぶ喜び、飼うために犬OKの住居を探すエネルギー、毎日のごはんや獣医療費を捻出するために自分でお金を稼がないといけない使命感、うちの犬が誰かに迷惑かけたら謝りに行く管理責任、そして、勝てない病や老いに対峙したとき、自分の判断と責任において、どんな治療法を選択するか、どこまで延命させるか、介護はどうするかなど、良いことも大変なこともすべて自分で決め、選択する立場です。自分が愛犬を守り、養い、看取る全責任者ということは、それだけ想いや苦悩も強くなる部分があります。
また大人は子供と違い、なまじいろいろな人生経験を積んでいるため、さまざまなストレスや大人の事情を抱え込んでいることも多く、結果、それを犬に癒してもらおうとする気持ちが、もしかすると子供より強いかもしれません。子供は、目先の好奇心や幸せですぐ立ち直ることのできる活力がありますが、大人の方が意外と愛犬に対する依存心が高いケースもあるように感じます。依存心が高ければ高いほど、ペットロスの痛手は大きくなります。

memo

白石花絵(しらいし・かえ)さん プロフィール 雑文家。1967年東京生まれ。 広告のコピーライターとして経験を積んだ後、動物好きが高じてWWF Japan(財)世界自然保護基金の広報室に勤務、日本全国の環境問題の現場を取材する。 その後フリーライターに。犬専門誌や一般誌、新聞などで犬のコラムなどを執筆。記事を通じて犬と人がハッピーに共生できる社会になることを願っている。 主な著作 『うちの犬 あるいは、あなたが犬との新生活で幸せになるか不幸になるか分かる本』 『東京犬散歩ガイド』 『東京犬散歩ガイド武蔵の編』 ブログ『バドバドサーカス』 http://budbud.blog70.fc2.com/

こうした背景から、子供時代のときと、大人時代とでは、愛犬との死別の感じ方が少し違ってくると推察できます。でも、もちろんどちらも大きなダメージであることには変わりません。
では実際に愛犬を失ったとき、心や体はどんなふうになるのか、ペットロスを増幅させないためにできることはなにか、などについて次回でもう少し詳しく紹介します。
(文章、写真:白石花絵)

続き→生006:ペットロスを考える② 「一緒にいられてよかった」そう思える毎日を

 

関連記事

ページ上部へ戻る