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生 : 009:野良猫増加をストップ!ヒトとネコが共存できる地域に 〜静岡県御殿場市の地域猫活動とは?

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野良猫の増加や殺処分を防ぐ取り組みとして注目を集めている地域猫活動。ONE BRAND では、今回、約 1 年前から行政・地域住民・ボランティアが三位一体となって地域猫活動に取り組んでいる静岡県御殿場市の皆さんを取材。動物の専門家として活動に協力している、ユウ動物病院院 長の岸川直幹先生にも活動の現状と課題を伺いました。

地域猫活動は、行政・地域住民・ボランティアの三位一体で
富士山の裾野に広がる御殿場市。

ONE LOVEプロジェクトの賛同者でもある、ユウ動物病院院長の岸川直幹先生 岸川先生のONE LOVEメッセージ

ONE LOVEプロジェクトの賛同者でもある、ユウ動物病院院長の岸川直幹先生
岸川先生のONE LOVEメッセージ

市の中心部・JR 御殿場駅近くの新橋地区では、以前から野良猫の増加に住民が頭を悩ませていました。特に近年は「かわいそうだから」とこっそり置きエサをする人もいて、その食べ残しの悪臭や糞害、発情期の鳴き声などに対して自治会や行政に苦情が多く寄せられていました。 そこで平成 24 年 3 月に行政と自治会(地域住民)、地域の獣医師らが話し合いの場を持ち、 地域猫活動(=野良猫を「地域猫」として地域ぐるみで管理、殺処分をせずに野良猫の数を減らしていく活動)に取り組むことを決定。市の広報紙でボランティアを募集、地域猫の先進地 から講師を招いて講習会を開くなどして準備を進め、8 月から本格的な活動をスタートさせました。行政として活動に参画する御殿場保健所薬務衛生課の田中恵美さんは「地域猫活動は行 政単独では決してできないこと。新橋地区の場合は自治会やボランティア、そして地域の動物病院が非常に協力的だったからこそスムーズにスタートできたのです」と振り返ります。

 

「憎たらしい野良猫を、地域みんなの猫だと思えるようになった」
御殿場市の地域猫活動では、いわゆる「TNR」を活動の中心に据えています。TNR とは、猫を捕獲(Trap)、不妊・去勢処置(Neuter)を実施し、もとの地域に戻す(Return)ことを指します。ユウ動物病院院長で御殿場市の地域猫活動に協力している獣医師の岸川直幹先生によると「野良猫の平均寿命は 5 年ほど。不妊去勢手術で生まれる猫の数を抑えれば、殺処分することなしに少しずつ野良猫の数を減らすことができるので、TNR は非常に野良猫対策として非常に有効」とのこと。岸川先生は静岡県獣医師会駿東支部および市内開業動物病院に呼びかけて協力を要請、これまでの約 1 年間で 100 頭以上の猫に不妊去勢手術を実施してきました。 同時に新橋地区では、ボランティアと自治会の方々が中心になって餌場やトイレの設置、清掃活動を推進。すると、悪臭や糞害がなくなって町がきれいになり、地域住民の活動への理解がぐっと深まったと言います。自治会の副会長を務める勝俣さんも「以前はゴミを食い散らかす憎たらしい野良猫!と思っていたのに、地域みんなの猫として接するうちに、なんだか可愛く思えるようになってねえ」と目を細めていました。

猫の殺処分数が半減!地域を巻き込むことが成功の鍵

御殿場市保健所の田中主査

御殿場市保健所の田中主査

町が美しくなるにつれ、当初無関心だった人々の意識も少しずつ変わりはじめました。地元の商店主の方々も自発的に清掃活動に参加してくれたり店頭に募金箱を設置してくれたりするようになり、新橋地区の地域猫活動は、文字通り地域ぐるみの活動に発展しつつあります。 ボランティアとして活動に携わるある女性は「通常のボランティア活動では、地域の方々の関心は低く、『猫好きの人が集まって何かやっている』くらいの認識しか持ってもらえないケースがほとんど。その点、地域猫活動は行政や自治会と一緒に実施する活動なので地域住民の方 の信頼や理解を得やすく、すごく活動しやすい」と、今回の取り組みを高く評価。御殿場保健 所の田中主査は「新橋地区の地域猫活動がマスコミ等で取り上げられたのを見て住民の皆さんの意識が高まったのか、保健所に持ち込まれる猫が減り、猫の殺処分数も前年に比べ半減しています」と話し、活動の手ごたえを感じていると言います。

継続のための財源確保が課題
ここまで順調に発展してきた御殿場市の地域猫活動ですが、もちろんまだ課題も残っています。

御殿場市新橋地区自治体の 勝又副会長

御殿場市新橋地区自治体の
勝又副会長

中でも獣医師の岸川先生が最も懸念しているのが、地域猫の健康管理についての問題です。「今後、地域猫の活動を継続するにためには、地域猫の健康管理とその費用に関する問題をクリアせねばなりません。実際、これまでも何回か病気の地域猫を治療したことがあります」と岸川先生。たしかに「地域猫」として地域で世話をし始めると、対象の猫に対して情が移り、病気やケガに気づいたら「治療を受けさせてあげたい」と思うようになるのが人情というもの。しかし、ちょっとしたケガや病気ならともかく、手術や長期入院を要するケースでは多額の医療 費が必要に。さらにノミ・マダニ予防薬やワクチン接種にかかる費用は毎年発生します。岸川先生は「もちろん私たち獣医師は動物の命を救うことが使命ですから、極力協力をさせてもらいます」とした上で「でも、私たちにも限界があり、毎年すべて無料で…というわけにもいきません。健康管理の財源をどう確保するかを早急に考えなくてはなりません」と今後の課題を 指摘しました。 またボランティアの方々からも「だいぶ減っては来たものの、地域内の猫の数が未知数。まだたくさんいるので、腰を据えて長期的に取り組んでいかなくては。現在のボランティア数(約 15 名)では、猫の捕獲や手術後のケア(通常、メスはボランティアが自宅で一晩保護して様子を見る)が大変なので、ボランティアの数も増やしていかなくては」と話しています。

地域猫活動を全国に!

市の広報誌の呼びかけによって 集まったボランティアの皆さん

市の広報誌の呼びかけによって
集まったボランティアの皆さん

まだまだ課題は多いものの、新橋地区に大きな変化を生んだ地域猫活動。

自治会副区長の勝又さんは「自治会の皆さんの理解があるので、費用面も含め、今後も積極的に活動に協力していく。猫が地域にいることを逆手にとって、町おこしをするのもいいかもしれないですね」と意欲を見せていました。
実際、御殿場市には他の自治体から「ノウハウを教えてほしい」との問い合わせもあったとのことで、田中主査は「ノウハウや情報を共有することで、地域猫活動の輪を全国に広げ、愛護動物である猫の殺処分を少しでも減らすことができれば」と話していました。

 

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