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12.122016
しゃベル ✕ ワンブランド わん!ダフルストーリー Vol.44
愛犬の癌を受け入れて生きる 余命2ヶ月の愛犬に贈る最後のプレゼントとは?
■ある日、フードボウルに血が…
愛犬家向けメディアやイベントの企画・運営を手掛ける小川 類さん。愛犬のモコス(トイプードル、オス、10歳)は、ちょうど今の仕事を始めるタイミングで飼い始め、苦楽を共にしてきた「相棒」のような存在です。
若いころのモコスは小川さんと一緒に毎日オフィスに出勤。持ち前の明るい性格で、社員はもちろんオフィスを訪れるお客様にも可愛がられる看板犬として活躍してくれました。時には小川さんが編集長を務めるマガジンの誌面にモデル犬として登場することも。
「モコスは本当に優しくて賢くて、私や周囲の人を困らせたことはほとんどありません。この10年間、楽しいときも大変なときも私にそっと寄り添ってくれました。何度モコスに助けてもらったか、わからないほどです」と小川さん。
モコスを飼い始めた当時は独身だった小川さんが、後に結婚・出産という人生の大きな節目を迎えたときも、モコスはそれを淡々と受け入れてくれました。「よく飼い主の生活の変化でストレスを溜めたり、神経質になってしまったりするワンちゃんもいますが、モコスは大丈夫でした。夫にもすぐに慣れてくれましたし、娘が生まれたときは、すっかりお兄さん気取り。私が授乳していると、そばに座って周囲を警戒したりして(笑)、守ってくれました。今は2歳半になった娘の良き遊び相手になってくれています」。
ところが、2016年8月、モコスと小川さんの生活に大きな危機が訪れました。
ある日、モコスのフードボウルに血がついているのを見つけたのです。驚いた小川さんがモコスの口の中を調べてみると、歯茎がぷっくりと腫れています。「歯槽膿漏かな?」と思った小川さん。「さっそくかかりつけの動物病院に連れて行くと、モコスの口を見た途端、先生の顔色がサッと変わって、これは悪いものかもしれないから検査しましょう、とおっしゃったんです」。そして検査の結果、告げられた病名は、悪性黒色腫。なんと、モコスの身体は癌に侵されていたのです。
■術後1か月で再発、そして余命宣告
実はモコスは、その2か月前の定期検診で異常がないという診断を受けたばかり。それだけに、癌の宣告は小川さんにとってまさに青天の霹靂でした。
「仕事柄、犬に関する知識はある程度ありますし、病気の体験談などもたくさん聞いていたはずなのに、いざ自分のことになると頭が真っ白になって、何も考えられませんでした」。
しかし呆然としてはいられないほど、モコスの症状は深刻。翌週にはもう腫瘍削除のために顎の3分の1を切除する大手術を受けました。でも、術後に医師からは「悪性黒色腫は非常に転移しやすいので、今後も通院と検査が必要」との説明があり、決して安心はできませんでした。
「それでもモコス自身は元気で、顎を切除したために多少食べにくそうにはしていましたが、食欲もありました。だから、心のどこかで『もう大丈夫に違いない』と思っていたのです」という小川さん。
しかし、術後わずか1か月後の10月のある日、ついに恐れていたことが起きてしまいます。
モコスの元気がなく、足もふらふら。切除した患部も腫れ上がってきていました。小川さんは「まさか再発?でもこんなに早いはずはない…」と自分に言い聞かせましたが、医師の勧めで撮ったCTに写っていたのは、肺に転移した癌…。リンパにも転移が見つかり、もう手の施しようがない状態であることが明らかに。担当からは「抗がん剤などの積極的な治療をしないとなると、余命2~3ヵ月」との宣告を受けました。
「余命宣告は冷静に聞くことができましたが、いざ診察室から出たら、モコスを失うかもしれないという悲しみと不安がどっと押し寄せてきて…。思わず娘を抱きしめて号泣してしまいました」。
しかし、小川さんはあることに疑問を抱きました。
「余命宣告」にとらわれず、モコスとの最後の日々を楽しみたい
「モコスは余命2ヶ月で、もう手の施しようがないということを頭では理解できます。でも目の前のモコスはまだちゃんと元気に生きているんですよね。一生懸命生きているモコスに『もう余命2ヶ月だから、何もしないよ』とは言えません。確かに余命は短いかもしれない。でもだからといって何もできないはずはない!と思ったのです」。
そこで小川さんはかかりつけの動物病院「成城こばやし動物病院」内に設置されている東洋医学 鍼・漢方外来を受診することに。
「改めて漢方外来の担当医の山内先生のお話を聞いて、目からウロコでした。西洋医学では癌は除去するなど“治療を施す”いう発想ですが、東洋医学では癌があっても進行しなければ“共存”もできる、という発想なのです。なるべく癌を刺激せず、大きくしないような生活を心がけようというのが山内先生の基本姿勢。西洋医学では手の施しようがないと言われたモコスにも、東洋医学では自分にまだできることがある!そう思うと、嬉しくて嬉しくて…。何でもやってみようと、俄然やる気が出てきました」。
早速、小川さんは医師の指導の下、モコスの食事改善に着手。穀物の入っていない、肉が主原料のフードに切り替え、そのフードに医師から勧められた野菜や肉をトッピングしたものを与えています。幸い、モコスは喜んで食べてくれるそうです。
「このほか、漢方薬も数種類飲んでいるのですが、とても苦い薬があるんです。だからモコスに気づかれないように、『よし、今日は肉団子でくるんじゃおう!』『おやつに入れちゃおう』とか、言いながらいろいろと工夫しています。こうやってモコスのために、あれこれしてあげられること自体が、とても幸せです」と話す小川さん。
もうすぐ余命宣告を受けてから2ヶ月が経ちますが、いまのところ、モコスの様子に特に変化はありません。いつもどおり、ご飯もよく食べ、小川さんの娘さんと仲良く遊んでいるそうです。
「愛犬の最後の日々をどう過ごすのか。それを決めるのは『余命宣告』ではなく、あくまでも、飼い主と愛犬なんですよね。余命宣告を受けたからといって、もう何もできないとあきらめてしまうのは、とても残念なことですし、飼い主が毎日悲しい顔をしているのは、犬にとっても悲しいと思うんです。視点を変えれば、きっと何かできることがあるはず。そしてその『何か』を通じて、もう一度しっかり愛犬と向き合うことができるはずです。これこそが、愛犬への最後のそして最高のプレゼントになるのではないでしょうか」。