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6.82016
しゃベル ✕ ワンブランド わん!ダフルストーリー Vol.14
18歳のご長寿犬「ちえちゃん」を支えた「手作りごはん」とは?
■出産直後の母犬を救った「鶏ガラスープ」
横浜市青葉区のナチュラルペットケアサロン「シアン・シアン」。トリミング、マイクロバブルを受けることができるサロンには、ペットホテルやドッグラン、ペットグッズショップも併設されており、いつも常連のワンちゃんたちでにぎわっています。
オーナーの黒沼朋子さんが特に力を入れているのが、ペット向けの食育。ペット食育協会認定の上級指導士として、安心して与えられるペットフードの紹介や、ペット向け手作りごはんの普及に取り組んでいます。
黒沼さんが、ペットにとっての食の大切さに気付いたのは、最初に飼ったシーズー犬2頭のうちの1頭・しーちゃんが出産後、急に市販のフードを食べなくなってしまったことがきっかけでした。
「初めてのお産で神経質になってしまったのか、5頭の子犬の授乳とお世話に必死で、何も食べようとしませんでした。水は飲むのですが、それまで大好きだったフードやおやつをあげても全く食べてくれず、ガリガリに痩せてしまって…。困り果てていたときに思い出したのが、幼い頃、風邪をひくと祖母が作って飲ませてくれた鶏ガラスープでした」。
鶏ガラをコトコト煮込んで作るシンプルな具なしのスープは、美味しくて栄養たっぷり。「あのスープなら、しーちゃんも飲んでくれるかもしれない」と、ひらめいた黒沼さん。
さっそく作って飲ませてみたところ、予想的中!しーちゃんは美味しそうにスープを飲み干してくれたのでした。その後はスープの中に柔らかく煮込んだ鶏肉やごはんを入れて、さらに栄養をUP!この手作りスープのおかげで、しーちゃんは産後の体調不良を乗り越え、無事に5頭の子犬を育てあげたのでした。
■根強かった「手作り」への不安
しかし、子育て後のしーちゃんは元通り市販のフードも食べてくれるようになったため、食事をフードから手作りごはんに切り替えることはしなかったという黒沼さん。
「当時はまだ、市販のペットフード=犬にとって一番いい食べ物だという考え方が主流で、私自身、その考えに縛られていましたから、手作りごはんに切り替える勇気がなかったんです。有名なメーカーのフードさえ与えていれば、栄養も偏らず、ペットの健康はバッチリ…と思い込んでいたんですね」。
その後、トリマーを目指して専門学校に進学、2000年には念願のサロンをオープンさせた黒沼さん。その直後、思いがけない形で、再度、ペットの食と向き合わざるをえない状況に陥りました。
愛犬のシーズー・ちえちゃん(しーちゃんの娘)が、2歳を過ぎたころから、重度のアトピーを患うようになってしまったのです。
皮膚が赤くはれ、ひどい痒みに苦しむちえちゃん。病院に連れて行って薬を処方してもらっても、一時的に良くなるだけで、すぐにまたぶり返してしまう…。その繰り返しだったそうです。
そんなとき黒沼さんは、あることに気づきます。
「サロンのペットホテルに愛犬を預ける際、飼い主の皆さんはそれぞれ普段与えている食事を持ってきてくださるのですが、中には手作りフードを冷凍してお持ちになる方もいます。その方の愛犬を見ると、なぜかすごく健康状態がいいんですよ。目が輝いていて毛の艶もばっちり。アトピーの子もいません。もしかしたら、しーちゃんを助けてくれたあの鶏ガラスープのように、手作りフードには、市販のフードにはない“なにか”があるのかもしれないと思い、勉強を始めることにしました」。
そして犬の食に関するさまざまなセミナーに出席して、多数の書籍を読破。さらにペット食育協会の講座を受講して試験を受け、同協会認定の上級指導士の資格を取得した黒沼さん。「知れば知るほど、生き物にとっての食の大切さを痛感。学んだことを活かして、ちえの食事内容を少しずつ変えていくことにしたのです」。
■18年の長寿を全うした、ちえちゃん
黒沼さんがちえちゃんに与えた手作りフードは、特別なものではありません。
使っているのは、近所のスーパーで簡単に手に入る食材ばかりで、メニューも人間用とほとんど一緒。黒沼さんとちえちゃんが同じメニューの食事を楽しむこともよくあったそうです。
「ただし、人間用の味は犬には濃すぎるので、味付け前に犬用の分を取り分けるのがポイント。でも見た目はほとんど同じですから、なんだか嬉しいんですよね。同じメニューを食べることで、愛犬との絆が一層強まっていく気がします」。
もう1つ、黒沼さんが気を付けているのが、旬の食材を使うこと。「今は、1年中、ほとんどの食材が手に入りますが、食材には本来は『旬』があって、その時期にとれるものが一番栄養価も高いんです。自分にもペットにもできるだけ新鮮で栄養価の高いものを選びたいですよね」。
こうして黒沼さんの手作り食を食べ始めたちえちゃん。嬉しいことに少しずつアトピーの症状は緩和。症状が悪化することもなくなり、薬のお世話になる回数も減ってきました。
13歳になる直前に目にできる癌(扁平性上皮癌)を発症し、3度にわたる手術を受けましたが、抗がん剤や放射線治療はせずに回復。15歳になるころには主治医から寛解(※)宣言をもらうことができました(※完治に近い状態)。その後は癌を再発することもなく、なんと18年の長寿を全うして、ちえちゃんは安らかに天へ旅立っていったのです。
■ペットの食の見直しが、生活全体の潤いにつながる
「私自身、ちえがこんなに長生きできるとは思っていませんでした」という黒沼さん。「確証はありませんが、手作り食に切り替えたことがちえの健康と長寿につながったんだと信じています」。
今は、サロン業務の傍ら、手作りフードの普及や食育の大切さをテーマに講演をすることも多いという黒沼さん。ペットの食を見直すことは、実は飼い主さん自身の生活を見直すことでもあると言います。
「愛するペットの口に入るものだから…と、より安全で新鮮な食材を選んでいるうちに、いつの間にか飼い主さん自身の食事もヘルシーで豊かになってきます。私も、ちえの食事を作っているうちに自分の食生活も改善。心身ともに軽くなり、生活に潤いが生まれました」。
ペットの食に悩む飼い主さんは多く、黒沼さんのもとにもよく相談が寄せられます。そういった飼い主さんはいわゆる「フードジプシー状態」に陥っていることがよくあるのだそうです。このフードがダメだったら、あのフード…と、頻繁にフードの種類を変えているケースもよくあるのだとか…。
「もちろんすべての犬に手作りごはんが合うわけではありませんし、市販のフードで健康を維持できる犬もたくさんいます。ただ、どのフードを与えても体に合わないようであれば、コロコロと種類を変えるよりは、一度手作りごはんを試してみる価値は十分あります。ペットのために自分の目で食材を選び、自ら調理することによって、思いがけない気づきがあるかもしれません。ペットの健康が不安な方、ペットとの関係に悩んでいる方、まずは、ペットの食を見直すことから始めてみてください」。