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5.72016
しゃベル ✕ ワンブランド わん!ダフルストーリー Vol.8
がんばれ、すみれちゃん!
電車事故で脚2本を切断した元保護犬の今
今回の主人公は、群馬県で暮らす柴犬のすみれちゃん(推定7歳)です。
元保護犬で今年の3月に新しい飼い主の下に引き取られたすみれちゃんは、そのわずか1カ月後の4月初旬、群馬県内で電車にはねられ、左の前足と後足、そして尻尾を失ってしまいました。
「こんな状態になったら、とても面倒を見きれない」と飼い主に見放されたすみれちゃん。事故後数日間、病院に預けられていたものの治療を受けさせてもらえず、傷口にウジ虫が湧いた状態で動物愛護団体に保護されました。
事故からもうすぐ1ヵ月。今、すみれちゃんはどうしているのでしょうか?
■大けがをしたまま、放置されたすみれちゃん
「大変!すみれちゃんが、大けがをしているの…!」
4月11日の夜、群馬県高崎市の動物愛護団体NPO法人群馬わんにゃんネットワーク(理事長:飯田有紀子氏)のもとに、知人から1本の電話がかかってきました。
すみれちゃんはもともと高崎市内で迷い犬として保護された保護犬。今年3月に同NPOを介して、高崎市動物愛護センターの譲渡会で里親を募集、前橋市に住むある女性に譲渡されました。同NPOでは譲渡に際して、飼い主の年齢や生活スタイル、住居等に厳しい条件を設けており、面談やアンケート、ときには希望者の家庭訪問等も実施して慎重に譲渡先を決めることにしています。その女性はいずれの条件もクリアしており、娘や父親も事前面談に訪れるなど飼育に協力的な姿勢を見せていたことから、すみれちゃんを譲渡することにしたのです。
ところが、そのすみれちゃんが、前橋市内の上毛鉄道の線路で電車に轢かれて左前後足を切断、治療も受けずに放置されていると言うではありませんか…!
飯田理事長は、すみれちゃんの担当者だったボランティアスタッフの星野ちづるさんに連絡。星野さんはすぐに飼い主の女性に電話をしますが、女性は「うちには介護の必要な人間がいて、とても犬の介護まではできない」とのことで、すみれちゃんは前橋市から車で数十分もかかる動物病院に預けてきたということでした。その病院の獣医師には「ケガをしてから時間が経ちすぎているので、断脚するしかなく、今後は介護生活になる。手術も必ず成功するとは限らない」と言われたと飼い主から聞かされました。
確かにその時点ですでに事故から丸2日が経過していました。というのも、すみれちゃんが事故に遭い、大けがを負った状態で前橋東警察署に保護されたのは4月9日(土曜日)。すみれちゃんには譲渡前に身元を示すマイクロチップが装着されており、首輪には観察や迷子札もついていましたが、週末で市役所が休みだったことから飼い主の捜索ができず、月曜日までの2日間、「遺失物」としてケージに入れられ、警察署の建物の外に置かれていたのでした。
後日、星野さんが警察署の人に話を聞いたところ、時折署員が様子を見に行き、水は与えていたとのこと。ただ、おう吐の危険があるとの判断で食べ物は与えなかったのだそうです。
「日本では、迷い犬はあくまでも『遺失物』として扱われるので、前橋東署の方を責めるつもりはありません。ただ、高崎市の場合は、市内の警察と保健所の連携体制が確立されているので、もし今回のような事態が起きた場合は、休日であっても保健所職員に警察から連絡が入っていたはず。たまたま前橋市で事故にあったために、飼い主の確認が遅れてしまったことは、とても残念。自治体によって保護動物への対応にばらつきがあるのは問題だと思います」と星野さんは話します。
11日の月曜日の夜になって事故を知った星野さんが飼い主に連絡をしたものの、飼い主は先ほど述べた通り、治療をする気はなく、「うちでは犬の介護まではできない」というばかりで、ついには星野さんからの電話にも出なくなってしまいました。
■飼い主が所有権を放棄。やっと治療を受けられることに…!
星野さんは焦ります。「一刻も早く治療をうけさせたい。他の獣医師に診てもらえば何とかなるかもしれない」と思った星野さん。電話では飼い主が安楽死を考えていると聞かされていたので、「安楽死なんてとんでもない。すみれは生きている。生きようとしている。だったら何としても助けてあげたい!」との思いがこみ上げてきました。
しかし飼い主は星野さんの電話を無視。すみれちゃんのいる病院の獣医師も「飼い主の許可なしに、すみれには会わせられない」と主張します。
そこで、星野さんが所属する群馬わんにゃんネットワークの飯田有紀子理事長は「飼い主にすみれの所有権を放棄させ、私たちがすみれを引き取って治療を受けさせる」と決意。理事長が電話で連絡をしたところ、飼い主は所有権放棄に同意、その旨を記した書類をすみれちゃんのいる動物病院に提出しました。
「最後まで飼い主は言い訳ばかり。しかもこの飼い主は、譲渡の際の誓約を破って、自宅ではなく親族の家ですみれを飼わせていた疑いがあります。もちろん『最後まで責任をもって飼う』という譲渡の際の誓約も破っています。しかもすみれがあんなひどいケガをしているのに『所有権放棄はするが、こちらは介護もできないし費用も出せない。そちらで全てなんとかしてくれるのか』と言うではありませんか…。怒りがこみあげてきましたが、今は口論をしている場合ではありません。すぐに星野さんたちにすみれの保護に向かってもらいました」(飯田さん)。
駆けつけた病院で星野さんらは、獣医師に「栄養剤と抗生剤を入れる処置はしました」と説明を受け、病院の裏口からすみれちゃんを受け渡されました。
「毛には血がこびりつき、傷口にはちぎれた肉片とズタズタになった皮がレースのようにぶらさがっていました。傷口には、なんということでしょうか…、すごい数のウジ虫が食いついているのです。夢中で抱きかかえると、すみれの身体からウジ虫がボロボロとこぼれ落ちてきました」(星野さん)。
「いや、うちで手術をするなら、ちゃんときれいにしたんですけどね…」と恐縮する獣医師。星野さんたちは一路、高崎市内の信頼おける獣医師の下へすみれちゃんを担ぎこみました。
■過去は振り返らない。常に前をみて生きるすみれちゃん
この病院で手術を受け、獣医師や病院スタッフから献身的なケアを受けたすみれちゃんは、めきめきと回復。やつれて輝きを失っていた瞳にも、明るい光が戻ってきました。
「電車で傷口が押しつぶされてしまったのが不幸中の幸いでした。主治医の先生によると、もしもスパっと切断されていたら出血多量で命を落としていただろうということです。事故に遭ったことは本当に不幸なことでしたが、その中にでいくつかの幸運な偶然が重なって、今、すみれが生きています。ただそれだけで、私は感謝の気持ちでいっぱいです」(星野さん)
術後、数日で傷口の腫れも落ち着き、ハーネスで上からひっぱってあげれば、立ち上がることもできるまでになったすみれちゃん。今は、ある預かりボランティアのお宅で、介護を受けながら暮らしています。
「本当にすみれはすごいと思います。私だったら手足を失ったらショックで落ち込んでしまうか、不平不満ばっかり言ってしまうでしょう。でも、すみれは決してへこたれていないのです。痛みにも耐え、いつも前向きに生きようとしています。2本も足を失って尻尾を失っても、自力で立ち上がろうとするし、なんとかして自分で歩こうとします。本当にすごい。そのひたむきな姿を見ていると逆に私たちの方が励まされるんですよ」。(星野さん)
■世界から集まる「がんばれ!すみれちゃん」の声
そんなすみれちゃんの姿に励まされているのは、星野さんだけではありません。
ボランティア仲間がSNSにすみれちゃんを励ますための特設ページ「すみれちゃん応援団」を開設すると、全国からすみれちゃんを応援するメッセージが続々と届き、「すみれちゃんのために使ってください」と、募金を送ってくれる人も現れました。
「ときには外国の方からのメッセージも届きます。世界中の人が、すみれのがんばる姿に胸を打たれ、前向きな気持ちになれたとおっしゃってくれる。すみれは本当にすごい犬です」(星野さん)
すみれちゃんは今後、車いすか義足を使って、自力で歩けるようになることを目標に治療とリハビリを続けていくことにしています。
「すみれの身体に負担にならないハーネスをみつけてあげるのが当面の課題。もしこれを読んでくださっている方が、柔らかくて軽いハーネスのブランドをご存知だったら、ぜひ情報をお寄せください」(星野さん)。
波乱万丈の数週間を経て、今、再び落ち着きを取り戻したすみれちゃんですが、
星野さんは「これがゴールでは決してない」といいます。「本当のゴールは、すみれが今度こそ信頼できる飼い主さんに出会い、家族の一員として幸せな一生を送れるようになること。一度は私たちの判断ミスで無責任な人に譲渡してしまったことは悔やんでも悔やみきれませんが、今度こそはすみれを心から愛してくれる飼い主さんと出会えるよう、しっかりサポートしていきたいと思います」。
「すみれは幸い助かりましたが、今回の事故は本来決してあってはならないこと。私たちを欺いてすみれを引き取り、結局は飼養放棄した元飼い主のように
無責任に犬を飼う人が1人でも減るよう、私たちはこれから適正な犬の飼い方や命の大切さについてお伝えする啓発活動に力を入れていこうと思います。活動を続けていくにあたってつらいこと、たいへんなこともたくさんあります。でも、前向きな気持ちを忘れずに粘り強く続けていきたいですね。すみれに恥じないように、前向きにがんばります」(飯田さん)