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サンディエゴで出会った心温まる保護犬のはなし〜運命の出会いは雨降る夜に

サンディエゴで出会った心温まる保護犬のはなし 運命のデザイは雨降る夜に

2年前の雨が降る寒い日の夜、ファティマさんは友達2人を家に招いてピスコーラ(ピスコをコーラで割ったチリの大衆的な飲み物)を飲んでいました。丁度氷が無くなったので玄関の隣にあるキッチンへ行ったところ、ドアの下からうっすらと影が動くのが見えました。少し酔っぱらっていたファティマさんは、気のせいかと思い何気なくドアを開けると、長く伸びた毛が絡まってラスタのようになったずぶ濡れでボロボロの犬が静かにファティマさんを見つめて佇んでいたのでした。それがマルティンとの出会いでした。「ワーッ!!」ファティマさんは突然の来客におもわず大声で叫びました。そもそもファティマさんが住むマンションの入り口は常に鍵がかかっており、住人かその関係者しか入ることが出来ないのに、どうやって8階まできたのか、とても不思議な気持ちでいっぱいだったのでした。
「初めは迷い犬かもしれないと思って同じマンションの住人や近所の人へマルティンのことを聞いて回ったんですが、知っている人は誰もいませんでした。正直なところ犬が突然現れたから飼うだなんて責任が大きすぎると思ったので、誰か他に欲しい人がいれば今にも譲りたい気持ちでいっぱいでした」とファティマさんは当時の心境を語りました。しかしマルティンが現れた日の夜に一緒にいた友人の一人が言った言葉「この犬があなたの家の前に現れたのも何かの縁かもしれない、残念ながらもうあなたの犬だよ」。その一言が最後に決め手となってマルティンを飼うことにしたのだそうです。
飼い始めてしばらくは家の隅に隠れてなかなかご飯を食べようとしなかったマルティンでしたが、今ではファティマさんと一緒に寝たり、クローゼットの靴を荒らしたり、嬉しい時は家の中を駆け回り食堂のテーブルの上に乗って物を落としながら喜んだり、落ち着きのないほど元気な犬になりました。そして散歩へ行けば毎回近所のコーヒーショップや路上の新聞販売員の人から「おい、マルティン元気?」と声をかけられ可愛がられています。2年前、ボロボロで小汚い姿で現れたマルティンは今ではまるでファティマさんの子供のように無くてはならない大切な存在になったのでした。

【飼い犬】マルティン/オス/推定3歳/雑種
【飼い主】ファティマ・カストロさん
【取材先】チリ共和国/サンティアゴ

チリの首都サンティアゴは野良犬が約25万頭(保健当局推計)いるといわれ、いたる所に野良犬がいる。スーパーマーケット、地下鉄のホーム、イベント会場、煌びやかな映画祭のレッドカーペットの上を歩く野良犬もいたほど。数年前にチリで学生運動が盛んだった頃、野良犬は学生達と一緒に警察の放水車が放水する前で大喜びで水遊びをしていた映像がニュースで流れた時には、とても和やかな気持ちになったのは私だけではないはず。

写真・文=鰐部マリエ Wanibe Marie

1984年 愛知県生まれ
2007年 中南米、アジアを旅歩く
2009年 多摩美術大学映像演劇学科卒業
2011年 旅行中に出会ったチリ人と結婚し、チリに移住。
http://www.wanibemarie.com

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