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生006:ペットロスを考える② 「一緒にいられてよかった」そう思える毎日を

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前回の ONE LIFE「生002:ペットロスを考える①:子供時代と大人時代のそれぞれのペットロス」の後編です。 今回は実際に愛犬を失ったとき、心や体はどんなふうになるのか、ペットロスを増幅させないためにできることはなにか、などについてもう少し詳しく紹介します。

ペットロスは病気じゃない
sei006photo1 「ペットロス」は、1980年代頃からアメリカで使われるようになった新しい言葉で、「ペットを失うこと」という意味。日本では90年代以降、マスコミで取り上げられました。でも「ペットロス・シンドローム(ペットロス症候群)」の言い方が先行し、ペットロスとは「ペットの死を引き金にして起きる心の病気」であるかのような、少し曲がった解釈が広まってしまいました。
でもそれは違います。ペットロスは病気ではありません。家族や身内や親しい友人が死んでしまったら、私たちは泣き、悲しみます。それと同じく、愛犬を失ったときも悲しみのどん底に落ちます。ペットロスは、愛する者との別れを悼む正常な反応なのです。
ぼーっとしたり(感情の鈍麻)、死を受け入れられずに取り乱したり、死んだときの様子を何度も思い出したり、死んでしまった犬がまだそばにいるような気がしたり(認知・判断能力の低下)、人に会うのが嫌になるほどふさぎ込んだり(抑鬱)、反対に気を紛らわすためにやたら忙しく働いたり、食欲を失ったり、寝られなくなったり、頭痛や胃痛がしたり(身体の不調)、自分や家族や獣医師など誰かのせいにして責めたり(怒りや自責の念。転嫁行動)、数ヶ月経ってもう大丈夫だと思っていたのに思い出の品を見たり思い出の場所に行ったらまた涙が出たり、思い出の品をずっと持ち続けたり……。人によって感情や行動はいろいろで、継続する時間も人それぞれですが、とにかくそういう反応は大事な者を失った人ならば、ごく普通の反応です。自分だけが過剰反応だと心配しなくて大丈夫。多くの人が同じような想いを経験し、悲しみ、それを乗り越えていきます。 sei006photo2
愛犬が死んだら悲しいのは当たり前、だってとても大事な家族だったのだから。犬が死んだからといって会社は忌引き扱いにはならないけれど、今の世の中、愛犬を荼毘に付す日のために有休申請をするのは恥ずかしい行動ではないと思います。「たかが犬が死んだくらいで」と言う感覚の人もたしかにまだいるかもしれませんが、悲しみをわかってくれる人もたくさんいます。そのためには愛犬が元気なときから、犬友達や、犬を飼っていなくても理解のある人と人間関係を作っておくことも大事でしょう。いざその場面がきたとき、一緒に悲しみを分かち合ってくれたり、立ち直る力になってくれます。
ちなみにペットロスの悲しみの感情は、愛犬が亡くなった瞬間から始まるわけではありません。ガンなどの不治の病やかなりの老齢など、どんなに努力してももうじきお別れがやってくると認識したときからペットロスは始まります。余命宣告を受けたとき、涙が止まらなくなったり、頭が真っ白になったり、獣医さんに不信感が爆発したりするのもそのためでしょう。

いっぱい泣いて、悲しみときちんと向き合う
悲しみは女性の方が大きいように見えますが、それは家で一緒に過ごし、世話している時間が長かったことが影響しているのかもしれません。でも男性でも心から可愛がっている人なら同じように辛いはず。sei006photo3男性は、涙を見せまいと我慢して、自分の感情を押し殺して、人前で平気を装う方が多いですが、そのためによけいに悲しみがこじれて長期化したり、ストレスを鬱積させてしまうことがあります。可愛がっていた犬を大事に思う気持ちを隠すことはありません。女性でも男性でも子供でも大人でも、いっぱい泣いて、正面から悲しみと向き合うことが大事だと思います。
悲しみの大きさは、犬のサイズや犬種は関係なくて、思い入れの強さや飼い主の感受性などで変わってくるかと思います。
犬の年齢による差はないと言われます。ただ私の経験や周囲の話しを総合すると、心の準備ができていない「予期せぬ死」や「早すぎる若い死」はショックが大きいようです。今朝まで元気だった犬が心臓病や胃捻転などで急死したり、3歳や4歳など若くしてガンを発症し2〜3ヶ月で死んでしまうような若い死は衝撃が大きい。また交通事故や熱中症など、アクシデントとはいえ自分の管理ミスが少しでもある場合、罪悪感や自責の念からペットロスが強くなる傾向が見られます。
老犬は一緒に過ごした歴史が長い分、愛情や思い入れが強くなり、悲しみが大きくなることもあります。かたや私の大切なワイマラナーのバド(享年16歳8か月)のように「来年の桜は一緒にまた見られるかな」「来年の誕生日まで生きているかな」などと12歳の頃から毎年毎年泣きそうになりながら言っていたのに、意外や何年間も長く元気に生きてくれて、そして毎年徐々に衰えていく姿を見ていたら、心の準備ができてきたようで、思ったよりなぜかダメージが少なめでした。恐らく「よくこんなに長く頑張ってくれた。バド、こんなに長く私と一緒にいてくれてありがとう」と送り出すことができたのではないかと思います。自分が納得いく愛情を注ぐことができたと思うことができれば、ペットロスの立ち直りは早くなる気がします。そう考えると、老犬介護はそれなりに手を取られますが、お別れの覚悟をする貴重な時間ともいえます。

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長引くようなら医療機関に相談を ペットロスは病気ではありませんが、そのほかの要因(周囲の無理解や家庭不和はじめ病気になりやすい環境等)があった場合、愛犬の死をきっかけに、いろいろなことが複雑に絡み合って心の病気を発症することはあります。後追い自殺をしてしまう例もあるので楽観はできません。ペットロスから立ち直る時間や反応は個人差があるので一概に言えませんが、愛犬の死をずっと否定したり、鬱状態や体調不良などがひどいようならば、医療機関に受診した方が安心です。日本医師会が企画した『日医ニュース』(第1054号)でも「ペットの死をきっかけに憂鬱な気分、空虚感、不眠や身体の不調などが1か月以上も続くようなときは、かかりつけ医や精神科医・心療内科医に相談してみるのもひとつの方法です」とあります。カウンセリングをしてもらい、心の中を吐き出すことによって早く元通りの生活に戻れることも多いでしょう。

当たり前の毎日を大切にする
sei006photo4 ペットロスは犬を可愛がっていた人なら誰にでも起きる感情ですから避けることはできませんが(むしろ悲しくならない方がおかしい)、でもその日が来たときちゃんと自分はやっていかれるのか心配……その気持ちもよくわかります。それではいまのうちからできることはなんでしょう。正解はひとつではなくいろいろあると思いますが、経験からわかったことを書いてみます。  ひとつは、「犬は犬」だということを忘れないこと。わが子のように愛しくなる気持ちもわかりますが、擬人化はよくありません。犬に依存してしまうのもよくありません。犬の寿命はどう頑張っても人間より短いのですから。飼い主の方が分離不安にならないようにしっかりしないといけません。
もうひとつは、可愛がることを先延ばしにせず、1日1日を大事にして、充実したハッピーな時間を過ごすこと。愛犬はいつ死ぬかわかりません。そして人間よりはるかに速いスピードで一生を駆け抜けていきます。若くて元気炸裂の時期は瞬く間に過ぎ、意外やすぐにシニアの時代が訪れます。バドのおかげで長く犬の一生を見ることができたので、よけいにそう思います。輝くような時間は本当にすぐに通り過ぎていくのです。
あとになって「もっと〜してあげればよかった」と後悔しないように、元気なときから全力で愛犬と遊び、出かけ、いっぱい撫でてあげる。当たり前と思っている毎日を大切にする。病気になったら真剣に向き合い、獣医さんの話しをよく聞き、理解し、わからなければどんどん質問をし、どんな治療をするのかしないのか、自分でちゃんと決める。その決断はとても責任重大だし、その時点で十分泣ける事態なのですが、人任せにせず、よくわからないからと言って獣医さんに委ねずに、自分と家族でちゃんと向き合っていくことが、悔いを残さないための大事なプロセスです。犬は飼い主を観察する天才ですから、その一生懸命な思いはなんとなくかもしれないけどきっと伝わっていると私は思います。
万が一病気の最期に安楽死を選ばねばならないような状態になったら、辛くても臨終の場に立ち会うことも重要だそうです。ものすごく辛いことですが、自分の目で確認することはあとで「自分はやれるだけのことはやった」という達成感・充実感のような思いにつながり、責任をまっとうした自分を評価できる気持ちが芽生えてペットロスから早期に立ち直ることができるとのこと。安楽死は普通大好きな飼い主さんの腕に抱かれて眠るように逝くそうですが、獣医さんに任せて自分で見ていないとのちに罪悪感ばかりが膨らみ、ペットロスが増幅してしまうことが多いそうです。悲しいけれど、ちゃんと現実を直視し、逃げずに向き合う。最期までしっかりそばにいる。きっと犬だって大好きな飼い主さんがそばにいれてくれた方が嬉しいし、安心するし、幸せなはず。愛するということはそういうことなのだと思います。

sei006photo5 ペットロスの悲しみが大きいのは、自分の犬を、心から大事に愛してやまなかった印。愛犬の死はたしかに耐え難いほど辛いけれど、それでも多くの人が犬と暮らしたいと思い、そして先代亡き後もまた犬を迎えるのは、犬が残した死の悲しみ以上に、犬が与えてくれる幸せがものすごく大きいからです。健康で元気なときから全力で悔いを残さないように毎日をハッピーに過ごす。そして愛犬の死後、いつかペットロスから立ち直ったとき、「うちの子になってけっこう幸せだったでしょ」と、写真の中からこっちを見ている愛犬に向かって笑って思い出話が言える飼い主になりたいと、自分も思っています。

 

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